はまなす放談

HPのリニューアルを機にコラムを設けました。
定期的というわけではありませんが、時代に遅れないように“放談”します。

vol.17 ゆうちょ銀行の未来

1. ゆうちょ銀行

 日本中の銀行が困っている。メガバンクさえも、他の業界に比べて株価の値下がりが目立っている(2018年4月時点)。金利ゼロ、マイナス金利下で本業に望みがなくなりつつある。状況がひどいのは地方の金融機関で、株価は軒並み新安値である。3月の中旬から値下がりが大きくなったが、これは深刻な状況だ。というのは、銀行株の配当利回りをみてみると3%前後であり、それは定期預金金利の100倍以上、それがもうすぐ手に入る時期なのだ。もちろん理論的に計算された配当落ちはあるが、通常それは短期間で埋まる。にもかかわらず人気がないのは、やはり日銀総裁の留任が決まり、超低金利が当分の間続くことが影響しているのだろう。
 こんな金融・銀行業界にあって、やや特殊な銀行である“ゆうちょ”銀行はどうなるのだろう。小泉純一郎という政治家の強烈な執念によって、郵政事業は民営化されることが決まり、株式の売り出しが2016年に実行された。周知のように、旧貯金事業がゆうちょ銀行になった。株式の多くは個人が買った。もともと郵便貯金をしていた人が余資を株式に振り替えたというケースが多い。
 銀行とはいっても、“ゆうちょ”はもともと貯金収集機関であり、金融業としては半分の機能しか持っていなかった。2001年までは、集めたお金は財政投融資となり公的金融機関などに供給されていた。一時は貯金総額230兆円となり、それは世界最大であった。全国に24,000局の郵便局が支店となり、小口の貯金を集めたのである。貯金は使わないのが原則というのが日本人の感覚であるから、いわば貯まる一方、残高は増える一方であった。これを脅威に感じる地方金融機関も少なくなかった。小泉純一郎という型破りな政治家と、そして銀行業界の思惑が一緒になって郵政民営化は突き進められた。だから後先のことをよく考えて秩序よく事が進んだのではない。その証拠に2012年には郵政民営化見直し法案が国会で成立する。
 資金運用部経由での運用が廃止されて以来(2001年~)、資金の行き先は当初、国債であった。現在では国債を最も多く買っているのは日本銀行だが、長い間その買い手はゆうちょと金融機関、そして途中から個人であった。しかし、現状ではほとんど利子がつかない。なにしろ10年国債の金利はマイナスなのである。
 ピークから減ったとはいえ、2017年のゆうちょ銀行の国債保有は総資産の30%、そしてまったくゼロ金利の日銀預け金が24%もある。発行年の古い国債は次々と満期となり金利がゼロに近い新発国債に置き換わっていく。

 民営化の当初は国債は全資産の88%を占めたのだから、かなり減ったのだ。でも、まだ30%もある。
 では、なんで稼いでいるのかといえば、“外国証券等”である。95%は為替ヘッジをしているという。しかしヘッジするにはそのための料金・手数料を払う必要がある。今日のように、ドルと円の金利差が拡大しているとヘッジの料金は理論的には上昇する。要するに稼ぎの中心はまだ国債(受取利息は2,600億円)だが、対前年比ではそれも1,800億円減少している。これを補っているのが外国証券による収益2,200億円だ。帳尻は合っているがポートフォリオとしては弱い。というのは、2017年は世界的に株高で、それに支えられた面が大きいからだ。収益が相場に依存しているのは危ない構造だ。もちろんプロが運用しているのだが、リーマン・ショックは“相場のプロ”が存在しないことを私達に教えたのだ。補論で述べるが、リスクは分散してもなくならない。
 普通に考えればこうなる。ゆうちょ銀行は全国に24,000ある郵便局を窓口としてなんと1億2,000万円もの貯金口座を持つ。そのほとんどは個人である。ところが金融業のもう半分の側、つまり運用側には個人はいない。これがアンバランスなのだ。政府の機関であった時代は、お金を集めるだけの機関でよかった。運用は政府がするのであり、収益は保証されていた。しかし、民間の金融業(まだ完全ではないが)となるとこのアンバランスは問題だ。
富士山が美しいのはシンメトリーだからである。せっかく個人を相手にしているのに個人への貸付はしていない。通常貯金の保有者に “貸し越し”機能をつけているが利用は少ない。100万円以下、50万円でもよい。ゆうちょ銀行が個人向けのローンをやったら、顧客にも大変便利だ。なによりこの種のローンの決め手は、顧客・貸し手の属性を知っていることだが、顧客情報は郵便局にたくさんある。探偵の真似をしなくてもよいし、個人情報をコンピューターにインプットして自動判定に任せなくても、局員は顧客をよく知っている。地方に行けばこの傾向はより顕著だ。最近では市中の金融機関で個人の顧客を見かけなくなった。“銀行”を利用するだけなら店頭に出むく必要はないが、郵便局は別である。ここは様々な目的で人々が出向く。そういう機関は他には市役所の戸籍の窓口ぐらいしかない。郵便局は個人金融にはうってつけの場所だ。
 なぜ個人ローンをしないのか。これが金融業として安定した収益を保証するし、ゆうちょ銀行にふさわしい。それがやれないのは銀行等の金融機関の反対があるからだ。もともと郵政民営化を推進したひとつの勢力は銀行業界である。官営の銀行があっては、民営というだけで不利になる、そう思ったからだ。日本では、民よりも官に信頼がある。そう思っている人がまだ多い。
 小泉元首相は郵政を無くしてしまいたかったらしい。金融と保険に関してはそうだった。しかし、それは残った。そこで、せめて、片方の手だけは封じておかなければならなかった。貸出はしないように圧力をかけ、それが功を奏し法律に明記された。しかし、このままでは国民に預金利息を支払えない。そこで有価証券運用は認めた。当時は、既に述べたように国債中心だったが、それはゼロ金利になった。ゆうちょ銀行は貸出業を認めるように何度も申請を出すが“民業圧迫”を理由にこれは認められなかった。遂に“ゆうちょ”銀行はこれを諦め、資産側・運用は有価証券と決め、外国債への投資に軸足を移したのである。
 このように述べると必然の経過のようだが、これはかなりの危険を伴う。ヘッジしていれば外国為替取引の損失は免れるが、相場そのものの変動には対応できない。2016年からの株高でいまのところはうまくいったにすぎない。バランスシートの資産項目のかなりの部分が事実上非稼働というのもおかしい。
 金融機関の反対はあるにしても、個人ローンの需要は極めて高い。メガバンクはカード会社を子会社にしてこれを推進している。地方銀行もその真似をして、カードローンを大々的に展開し、社会的には個人破産を多発させるなど社会問題を起こしている。2018年4月にはシェアハウスをめぐる個人向けローンで地方銀行が問題を起こしている。彼らに、ゆうちょの個人ローン進出を邪魔する理由はない。個人を相手に預金を集めている機関が個人ローンをやるのはごく自然だ。
 個人ローンの需要が高まっている証拠がある。最近、ソーシャルレンディングという言葉をよく聞く。これは個人の預金者を小口の投資家に置き換えたものだ。借り手は個人でも企業でもよい。仲介はクラウド型だから店舗もなくコストは安い。その分、預金金利より高いリターンを投資家に戻せる。2017年の市場規模は1,300億円(『東洋経済』2018年3月17日)になるという。平均利回りは7~8%というからかなり高いが、この拡大は少々心配でもある。仮想通貨のようにやや信頼に問題がある主体が主役では困る。ゆうちょ銀行のように人々から信頼を得ている機関が、この舞台に登場したほうが世のためである。
 ゆうちょ銀行も外国有価証券に頼る危険を承知しているから、様々な分野への進出を計画し、一部実行している。地方銀行などを組んで地域活性化ファンドを運営する。これは既に地方にある。ただし金額も件数も多くない。2018年3月1日現在で10ファンドに参加している。(表1)

窓口では投資信託を売るという姿勢も強化されている。局員を教育して投資コンサルタントにする。その数を増員するなどが展開中だが、それほど残高は伸びていない(補論)。郵便局という安全神話に囲まれた宮殿がリスクを顧客に説明するのは難しいし、顧客が理解するまでには時間がかかるし、証券会社並みになるには容易なことではないし、そうなるのがよいとも限らない。
 2018年2月に自前の投資ファンドを組成した。その名もJPインベストメント。趣意書に、プライベートエクイティ投資をするとはっきり書いてある。他にもオールタナティブ運用として不動産ファンド、ヘッジファンドに進出した。片側に安全を求める個人預金があり、反対側は個人はないという逆シンメトリーが進行している。
 マイナス金利がひとつの元凶であることは理解している。この非論理性、政策としての悪影響については、別に書いた。危惧しているのは、マイナス金利という一時的な“異常”に対応するために、ゆうちょ銀行の基本構造が危険になり、それが恒常化してしまうことだ。
(濱田康行「マイナス金利を生きる」経済学研究(北海道大学)第66巻2号 2016年12月)

2. 信用組合

 比較のために、民間金融機関のうち、最小規模の信用組合をみてみよう。先日ある信用組合の事例に出会った。低金利で約定平均利率が2017年11月には2.78%になった。これは信用金庫などに比べると0.7%程、地方銀行に比べると1%程高いのであるが、それでも自己資本比率が下がってしまう水準だ。その計算は次のようになる。

 昨年の11月に日銀総裁がついに口にした“リバーサル”が現実のものになっている。金融庁はリレーションシップバンキングの焼き直しである“事業性評価”による融資を迫り、他方でバーゼルⅢの自己資本比率を念頭に置くよう主張する。信用組合の多くは国内業務しかないのだから4%基準でもよさそうなものだが、それは実業の現実を知らない人の言うことだ。
 自己資本比率は公表義務がある。それが安全指標で高い程よいという認識は、必ずしも正しくないのだが、広く世間に行き渡っている。いま、金融機関がABCとあっって、全てが国内業務だけでやっている前提で、自己資本比率が4%、6%、8%だったらどうなるか。世間の評価はAは危ないし、Cは優良なのである。横並びを気にするなと言っても無理だ。金融機関としてアクティブなのは4%のAなのだが、それは“危険”なのである。バーゼル規制の一面性がここに現れている。
 この信用組合の理事長は、このような困難な状況の中で、だからといって有価証券運用に頼るのは“危ない”とはっきり認識している。来年も良い年になるとは限らないのが相場である。そこで次の7項目を揚げる。私のコメントをつけて以下に紹介する。

① ミドルリスクを狙う。
この中には、創業支援・再生支援・承継支援、そして個人ローンがある。住宅ローンは過当競争で収益的にはゼロだが、融資額が大きくしかも長期に漸減するのでポートフォリオの構成には役立つ。欲しいのは、ここでもその他の個人ローンである。

② 要注意先の扱い(返済が危ぶまれる貸出先)。
このままにしておくと自己資本比率を下げることになるし、引当金も積まねばならない。これを短期のローンに切り換える。もちろん貸出先の合意が必要だ。

③ フィービジネス。

④ 出資の増強。
これは王道であるが、これまで、あまり考慮してこなかっただけにたやすくない。

⑤ 農業分野への進出。
ここは地方銀行も狙っている。それまでの農協による金融がいかにスキマだらけだったかを逆に示している。全国の地域金融機関の農業分野進出は、日本政策金融公庫との提携や各種保証金の活用でかなり進んでいる。これは6次化の言葉に象徴されるように農業も変化している証拠だ。それは自然の制約の中にあった。日照、水、土壌の改良は、かなりの技術、機械化、IT利用(日照情報)、バイオケミカルによる土壌改良、そして種子の改良によって克服されている。いまや農業は金融業が顧客とすべき産業に変身しつつあるのだから、それに対応するのは当然である。

⑥ 社会関係性資本の活用。

⑦ シビック・エコノミー・ソーシャルファイナンスの可能性。
おそらく、こうした新しいスキームの仲介者として立つことを考えているのだろうが、そのためには自らがITで武装する必要がある。かなりの投資が必要だが、規模の小さな金融機関では悩ましい問題だ。
将来を考えている経営者がいる限り、状況は厳しくても明日は開ける。逆は逆であろう。

3. 創業支援(信用金庫のケース)

マイナス金利の下で各金融機関は対応に苦慮している。海外展開で活路を見い出そうとするメガバンクはまだよいほうだ。小論では手づまり感のあるゆうちょ銀行と信用組合のミクロ事例を検討したが、信用金庫業界についてはふれていない。そこで、創業支援策に限定してこの業界の動向をみておこう。創業支援はいわば新規の顧客を生み出す、そういう意味では一歩踏み込んだ方向なのだ。
業界の広報誌『信用金庫』は2018年2月号で「信用金庫らしい創業支援」を特集している。
まず、一般論を述べておく。創業支援を金融機関がするのは難しい。金融機関の内部に創業経験者がいない。もちろん、経験しなくても見聞きすることで知識を得、それを人に教えるということは可能である。コンクリート工学の教授は実験室以外でコンクリートをつくったことはないし、建設現場の経験があるわけではない。
創業塾を受けに来る人も、そこまでの実践経験を聞く必要はない。まだ何もしていないのだから、どの経験が有効なのかはわからない。ただ、“偉そうなこと言ってるけど、じぶんでやったことあるの?”という不信は持つかもしれない。各金融機関の創業塾をみてみると、このギャップを埋めるために講師の中に経験者・現役の社長等を組み込んでいる。同じ事情は、自治体などが主催する創業塾も同様だ。役人に創業経験者はいないからだ。
教える中味は、会社をやるための初歩の会計、金融機関からおカネを借りるための準備、税金対応、そして補助金の獲得の仕方等である。役人がこれを教えるのはやや違和感のあるところだが。
もうひとつ問題がある。それは創業には二種類あるということだ、一つはベンチャー企業、ハイテク系だ。創業支援というのが日本に持ち込まれたのは1970年代だが、しばらくは企業・創業≒ハイテクベンチャーだった※。人々の頭に、見たこともないシリコンバレーのイメージがよくわからないままに焼きつけられたのである。しかしこの方策は数少ない例外的成功を除いて失敗した。こうした会社に投資するために日本でもベンチャーキャピタル会社・ファンドが数多く設立されたが、現在まで残っているものは少ない。
※濱田康行『日本のベンチャーキャピタル』日本経済新聞社 1998年

 もうひとつの創業は生業である。2002年の『中小企業白書』は「まちの起業家」を紹介している。信用金庫や信用組合の応援する創業の中心はこれだろう。しかし生業にも色々幅がある。ほとんど利益を念頭におかないレベルから、いつかはちゃんとした企業にというところまで範囲は広い。金融機関の創業塾の門を叩くのは前者だが、このレベルは融資の対象にならない。つまり、ここでは金融機関がボランティアになってしまう。やがて企業になって顧客になるのを待つのは王道だが、時間がかかり確率も小さい。
 そこで期待は、公的な支援である。見渡してみると公的な創業支援はたくさんある。あちこちでやっている創業コンテストに応募して当選すれば賞金がもらえるし、うまく申請書を書けば補助金獲得もあり得る。どこかの創業塾を卒業してから、金融機関の推薦を得て日本政策金融公庫に案件を持ち込むというパターンも多い。

 創業塾は将来への投資と割り切ってやるのもひとつの方法だが、それ自体は利益にならない。創業支援は、金融機関を取り巻く悪しき状況が生み出した副産物かもしれないが、宝の山に当たる可能性もある。瓢箪から駒ということもある。
 創業支援に関する信用金庫の対応は以前に比べればかなり積極的である。京都信用金庫は全店に「創業・開業のご相談は京信へ」が揚げられた。柏崎信用金庫の創業塾は「社長のたまご塾」という。第1期~6期まで約100名が卒業し29人が起業して、すべて事業継続中という立派な結果を残している。ただし、創業融資は500万円で限度5年間、金利は20%(!)である。

 ゆうちょ銀行は巨艦であるから、小さな金融機関の動きなど参考にならないかもしれない。海外に、世界に目を向けて大きな魚を捕りにいく。しかしそれだけだと、日本の遺産である郵便貯金の現在型としては寂しい。もっと、“日本のために”が資産側にあってもよいのではないか。規模は違うが、地元にしかいられない協同組織・金融機関は将来の道を苦労して模索している。小論の主張するような方向に進めば、ゆうちょ銀行と地域金融機関の間に競合があるかもしれないが、それを乗り越えてこそ両者の連携も、地方創生という日本への貢献もあるのだと思う。

【補論】

 『ゆうちょ銀行等の動向』(平成29年版)を読んで。(以下『動向』)

〈貸付業務〉について。郵政民営化法第110条で制限している。現行で可能なのは預金担保の貸付だけである。これは預金額を見合いの貸付だから厳密には貸付ではない。一般的な貸付(銀行法第110条第1~2項に規定されている)は、総理大臣及び総務大臣の認可が必要だから、目下の政治状況ではかなりハードルが高い。日本銀行のマイナス金利で大きなダメージを受けている銀行業界にとって、個人金融分野は利鞘を稼げる数少ない分野のひとつだから、競争相手の出現には反対するだろう。しかし、中長期的には中小・地方の金融機関は存続問題を抱えている。そのために、ゆうちょ銀行との連携を求めることは充分予想される。現在でも地域ファンドへの共同参画やATMの相乗りなどが進んでいる。なにより、ここには国民的ニーズがあり、人々を高利貸しから救うという古典的な金融業のテーマがある。

〈資産運用〉

 この『動向』の中に「オールタナティブ運用」に関する解説論文が綴じ込まれている。報告書に長文の論文が組み込まれるのは異例であるが、ここにゆうちょ銀行の有価証券運用に儲ける並々ならぬ決意がみてとれる。既に多くの外部人材が資産運用のプロとして採用されているようだ。報告書は、銀行のそれというより機関投資家の色彩を強く持っている。自ら、機関投資家であると宣言しているようにもみえる。リスクに関する説明にも多くのページを割いている。その手法に関するところは金融・証券の教科書のようだから、内部の人々が必死になって勉強している様子もうかがえる。しかし、繰り返しになるが、投資のリスクはなくならない。いかに分散しようと、時間軸を入れて分散しようと、リスクは消滅しない。むしろ、金融技術の発展によってリスクの伝搬は光速の域に達している。リーマンショックを思い出せばよい。アメリカの個人向け住宅ローンの焦げつきが日本の証券市場を暴落させるのに一日もかからなかった。しかも震源地よりも大きく揺れた。
 印象では、ゆうちょ銀行は“うまくやれば投資リスクを避けられる”というありもしない自称プロフェッショナル達に占領されてしまったようだ。
 ゆうちょ銀行のような巨大な資金を持った機関が有価証券投資をすると、個人がそうするよりもはるかに勝率が高いことは、そのとおりである。露骨に言えば、発行体や証券会社からの投資に関する情報が早く伝わり(もちろん非公式に、かつインサイダー取引にならないように!)、それに対応できるからである。そして、賭け事は資金力がモノを言う。
 国債がゼロ金利なのだから、いわゆるベースポートフォリオから離れるのはやむを得ない。この事情は年金も同じだし、あまたある財団も同様である。彼らには、この方法しかないのであるが、ゆうちょには24,000の支店を通じた個人顧客との接点がある。年金は将来のために積み立てる一方だし、財団は基金から運用益を引き出さなければ何もできない。しかし、ゆうちょには政治的な事情だけで封じられている“手”がある。
 GPIFやゆうちょ銀行のような“クジラ”が投資の世界にいることはメリットもあるかもしれないが(相場の安定性)、個人投資家を駆逐するデメリットもある。このままでは日本の証券市場のプレーヤーはクジラとネットトレーダーだけになる懸念もある。
 2005年から投資信託の販売を開始した。当初は販売額を増やしたが、2008年のリーマンショックに遭遇し価格も低迷し販売額も下がり続けた。販売額や総資産が回復してくるのは2014年頃からで、2016年からの株高で助けられるが、保有口座数でみると2010年の60万から2015年まではさほどに増えていない。純資産も2007年度に9,785億、2015年に1兆1,356億である。ゆうちょの資産に比べると1%にも満たない。つまり、“取り組み”強化といっている割には拡大していない。
 地域での資金の循環は当然の目標だが、そのツールは地域ファンドである。2018年3月末の状況は(表1)のとおりだ。これを見ると総額は253億円で、極めて小さい。九州地区で銀行17行と一緒に復興支援のファンドを組織しているが、ここでもゆうちょはLimited Partnerの一員であるにすぎない。前掲の表に示されているファンドへもすべてLPとして参加している。
 ゆうちょ銀行は地方創生の主体になることを期待されている。しかし現状では他力本願である。やり慣れないことを、おっかなびっくりという印象は否めない。投資事業は、一般的に言って、船頭が多くてはうまくいかず、GPが受け取る報酬が高すぎてもうまくいかない。

〈注目点〉

 期待しているのはプリペイドカード(mijica)の拡大である。それは人々の接点になるからだ。通常預金の口座を持っていれば利用できる。仙台と熊本で実験的に開始、現在は札幌市でも取り扱っている。キャッシュレス時代へのゆうちょの対応であり、人々に近い事業である。
 ファミリーマート1,200店に小型ATMを設置。これは、中国・アジアからの観光客対応である。16カ国の言語に対応している。
 ATMの地方金融機関との協働・相互利用も進んでいる。これは、将来、個人貸付ができるようになったとき大きな力を発揮することになる。

〈小括〉

『動向』によれば、「当行は、有価証券投資業務の経常利益が損益計算書の経常収益の90%を超える」。
 有価証券への投資が実物経済の拡大に、つまり人々にとって有用な物財の生産に繋がる可能性はあるが、現代ではそれは小さくなっている。というのは金融・証券の世界は自律的に、つまり実物経済とは関係なく拡大しているからだ。デリバティブ取引の拡大は一人の雇用も増やさないだろう。それはある人が得をし、その分、別のある人が損をする可能性を広げているにすぎない。
 有価証券の取引からあがる利益と実物経済との関連性はかなり低いと思われる。そこには多くの投機的取引が含まれている。たとえゆうちょ銀行にそのつもりはなくても、資金を運用する主体がそうするのである。
 では、ゆうちょ銀行の集める預金はどうだろう。それは、日本の平均的な家計の貯金であり、それは庶民と呼ぶにふさわしい人々の剰余なのであるから、実物経済の産物に違いない。要するに貸借対照表の左右の質的アンバランスが気になるのである。小論の主張するような、個人ローンの展開、そして中小零細企業への貸出なら、①資金の地域内循環であるし、②実物経済の中にあり投機の世界に入り込まない。人々のために、地域のために、それを通じて日本という国民経済の安定的成長に貢献する。これは、日本の“ゆうちょ”がずっと揚げてきたことなのである。
 2018年5月、郵政3社の決算が発表された。ゆうちょ銀行の経常利益は3,000億円強で、対前年比13%増。これは、運用利回りの高い外国証券の利益によるという。しかし、小論で主張したように、それはリスクであり、アメリカを中心に世界に金利が上昇する局面では特にそうである。

参考文献

・濱田康行「マイナス金利を生きる」『経済学研究』(北海道大学)第66巻2号 2016年12月
・信用組合に関する情報は、北央信用組合理事長 林伸幸氏の学会報告(日本中小企業学会北海道支部 2018年3月13日 於札幌)と配布された資料から得た。
・「信用金庫らしい創業支援とは」『信用金庫』2018年2月号 第72巻第2号。ここに引用した信用金庫の事例が紹介されている。
・濱田康行『日本のベンチャーキャピタル』日本経済新聞社1998年
・『中小企業白書』2002年版
・ゆうちょ財団『ゆうちょ銀行の動向』平成29年版 2018年
・濱田康行・金子勇「地方創生論にみる『まち、ひと、しごと』」『経済学研究』(北海道大学)第67巻2号 2017年12月)

2018.05.28 濱田 康行

contact

お問い合わせ