はまなす放談

HPのリニューアルを機にコラムを設けました。
定期的というわけではありませんが、時代に遅れないように“放談”します。

vol.09 新年度(2016)を読む

 〈期限切れ!〉
 アベノミクスが賞味期限切れであることは人々の認識するところになった。4月1日に日経平均株価は500円以上も下げた。最近では一日に1,000円近くも変動することもあったから、このくらいでは驚かないのかもしれないが、年度初日のこの下げは象徴的だ。下げの表向きの理由は前日発表された日本銀行の“短観”だ。これが事前予想より下回った。しかし、中国がここまで減速しているのは“事前”に周知なのだから、それを反映した短観に驚くのは少しおかしい。内外の投資家が日本経済の先行きに不安を感じたのである。第三の矢とやらで“なんとかする”と安倍政権は主張しつづけたのだけど、一向にうまくいかないからだ。

 第三の矢は地方には届かず、最近の調査では景況DIがマイナスになった地域が5つもあった(東北、関東、甲信越、近畿、四国)。そこで、少子化対策、女性に活躍してもらうとのふれ込みで“一億総活躍社会”とスローガンを塗り替えた。しかし、女性が子供を産んでも生産年齢人口になるには20年かかるし、主婦たちがやるビジネスがそうそう大成功するわけでもない。黒田総裁の物価2%上昇も実現しなかった。原油安、円高のせいにしているが、説得力はない。生活者の受ける感じでは、上がるものは上がっている。しかし賃金は増えていない。消費が所得の関数であるのはホントだ。このままでは国際公約に昇格した“2%”の“公約実現”は難しい。そこで、安倍首相みずからが“賃上”要請、“介入”となった。いわゆる官製春闘だが、賃金相場への圧力は昨年ほどには効かない。トヨタは4000円→1500円、パナソニックは3000円→1500円だ。昨年に比べ、ベースアップ幅を縮小した企業は6割になる。

 政府が動けばなんとかなる、そう思っているのは1940年体制の有効性をいまだに信じている旧人類だけだろう。金融政策の無効性がこれだけ明らかなのに、1月末にはマイナス金利が卒然と宣言された。世間の反応はマイナスのサプライズ。円安と株高はたったの2日間しか続かなかった。銀行業の収益悪化が予想され、銀行株は30%も下げてしまった。中央銀行というのは、市中の様々な銀行が協力して創立した機関ではなかったのか。日本中の多くの銀行経営者は失望しているに違いない、と思いきや、究極のサプライズが4月1日にあった。全国銀行協会の会長に就任したメガバンクの頭取がマイナス金利は「経済を浮揚する効果がある」という歓迎声明を出した。おカミの言うことはなんでも聞く、政策はすべてヨイショとなる。業界は困っているのに、このマゾヒストぶりには驚いた。

 金融政策・金利政策が現在のデフレには効かないことはリチャード・クーさんが口を開く度に強調しているとおりだ。少なくとも黒田時代の3年間は効いていない。少し考えてみればわかりそうなものだ。儲かる見込みがないのに投資する人はいない。投資すれば増産となる。多くの商品が売れなければならない。販売価格は利益を保証する想定内でなければならない。現在は多く売れる見込みもなければ価格への安心もない。金利がゼロだからといって投資はしない。
 消費者は将来不安をかかえている。借金してまで消費するなんていう人はもういない。だから頼みは第三の買い手。それは政府で、つまり財政支出なのだが、その効果に疑問がある。そして、財政危機だから資金的余裕もあまりない。マゾヒストのトップを戴くメガバンクも大変だが、本当に困ったのは地方の、協同組織系を含む、金融機関だ。彼らは彼らの地元に借り手がいないからといって海外に出て行くわけにはいかない。看板にも地方の名前がついている。現代では預金は自動的に集まってくる。物価が上昇しないなら金利はゼロでも苦にならないからだ。ところが貸出先はない。そこで、二つの方法、ひとつは国債を買う。もうひとつは日銀に預ける。マイナス金利の発表は後者の手段を封じた。しかし前者は残っている。額面100円の国債を100円+αで買って、期間の金利βを得て満期になったとする。α-βの値が正であれば損になる。しかし、ここには抜け道、それも公然とした抜け道が用意されている。途中で日本銀行という有難い銀行が100円+α+γで買い上げてくれるのだ。だからマイナスでもよいことになるが、この筋書きはどこかおかしい。

 日本銀行は国債を買い上げる機関だっけ。ウソでしょう。でも、もうすぐ日本で発行されている国債の半分近くが日銀保有になる。え~!国債の価格が暴落したら日本銀行は倒産してしまうのでは。そうなったら日本銀行の負債はパーになる。つまり紙幣がパーになる。
 国債の価格が運よくもって満期になればいいじゃない。でもそのときは発行元の国は100円しか返済しませんよ。それを100円+α+γで買った日銀は損をする。日銀の損は国が財政資金で補填することになってます。なんだ、コリャ!
 地方銀行は、連携して資産運用をしようとしている。顔ぶれをみると山口県から秋田・山形県まで7行の広域連携。単独では、なかなか投資情報も集まらず、また充分なノウハウもない。地銀の連携に政策投資銀などが手を貸すという。
いまから振り返ると財務省のねらいはここにあり、ゆうちょ銀行を狙い撃ちしたい日本銀行と全銀協、両者の思惑が一致したのかもしれない。

 〈今後〉
 問題は日本の資本主義全体が儲からなくなったことだ。それは長期金利の傾向的低下に象徴的に示されている。この傾向はほとんどの産業に及んでいる。こんな中で、一部の企業が史上空前の利益をあげているのは、低い労働分配率、相対的低賃金のためだ。正規労働が減少し非正規が増えるのはここ10年の傾向で、これは賃金の低下とほとんど同じことだ。
 円安になっても日本の輸出が増えない。それは製造業の劣化の証明だ。シャープ、東芝とかつての花形企業が揺れている。産業再生機構という組織自体の問題もあるがシャープが海外企業に買収されたことは日本資本主義の凋落を象徴している。

 不思議なのは原油安のメリットを誰も強調しないことだ。二度にわたるオイルショックは原油の値上りによって発生し、日本経済は甚大な被害を受けた。原油安の下でその逆のことが起きないのはなぜか。日本の産業が原油安のメリットを受ける構造を失ってしまった?つまり原油安→(製造原価安+円安)→輸出増にならない。それはどうしてか。産業構造の変化、つまりIT化で、原油安のメリットを受けにくい産業が多くなっている。シャープが良い例だろう。逆に日本の商社のように石油開発やその他の自然資源開発にのめりこんでいる企業が多い。日本には資源が乏しいけど日本の企業は資源を求めて海外進出している。
 それにしても原油安の評価が低すぎる。ガソリン価格が下がったことの利益はいつ現れるのだろう。※ これを人々が所得の増加と認識することはありそうもないが、エネルギーへの支出減が他の方面への支出増に帰結することはないのか。消費の状況をみると、いまのところそうなっていない。街を歩けば、消費をしている、そして少々無駄遣いをしているのは、ほとんど外国人だ。彼らが日本人の少ない消費を補ってくれている。円安はここでは同じベクトルで貢献している。
 生産面でも消費面でも良い材料はないし、分配面ではピケティ型の不平等が拡大している。やはり、このままの枠組みでは“日本の未来”という芽は出てきそうもない。ただし、この希望のなさは日本の資本主義についての話で、決して日本という国に絶望しているのではない。飲み水が豊富で、どこでもただで飲める。夜も安全であり、犯罪は比較的少ない。人々は勤勉で親切だ。あと、ひとつ、それはどこでも英語が通じる、をつけ加えれば世界で最も住み易い国という看板が掲げられる。人が集まれば、仕事ができる。経済は成り立つのである。


※ 日本政策金融公庫の最新のレポート(『調査月報』2016年4月号)によれば、原油安の恩恵を享受しているのは小企業である。どうして大企業ではなく小企業なのか?  小企業では燃料代のコスト全体に占める比率が高くなる。小型トラックを数台使って営業している運輸業、その周辺の企業を思い浮かべればよい。もちろん人件費の高騰はこうしたところにも及んでいるが、人数が少ない分、影響度が低い。
 サービス業では価格の転嫁が(競争条件を不変とすれば)しやすい。あちこちで値上げが続いている。それが浸透してくると支払側の抵抗感も薄くなるから小さな製造業なら値上げは可能である。小企業だけの採算DIをみると2009年9月のマイナス30.9をこれまでの最低として2015年12月にはプラスの11.5になっている。こうした小企業の景況改善が日本経済の表面に現れない、そういう構造が問題であり、改革の対象になるのである。
2016.04.08 濱田 康行

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