はまなす放談

HPのリニューアルを機にコラムを設けました。
定期的というわけではありませんが、時代に遅れないように“放談”します。

vol.07 株価について

 年が明けてから世界の株価が下落した。新聞や雑誌の見出しのレベルでみると、原因は中国経済の減速と原油価格の値下り、ということになっている。

 しかし、この二つの要因で説明するのにはかなり無理がある。まず中国経済の減速。これはずいぶん前、おそらく2年前から始まっていた。なんでいま頃、の感がある。常識的に考えても10%前後のGDP成長率が13億人の大国で長く続くわけがない。また、多くの経済学者・中国研究者が指摘するように、この国の統計はアテにならない。政治的・意図的という疑いがある。1月28日付の読売新聞の「論点」で東大教授の丸川氏は「数字がつくられている可能性はぬぐいきれない」と言明している。おそらく、ずっと前から“減速”し、現在発表されている6.9%よりかなり下、5%台だということが中国通の間では常識なのだ。証券界がそれを知らない訳がない。  知日派の外国人エコノミストも、株価下落の要因に中国減速をあげることに反対している。(『週刊東洋経済』2016.1.30のリチャード・カッツ氏の論評、P.107)

 原油価格。こちらの方は国によって影響が違う、というか反対になる。産油国にはマイナス、輸入国にはプラス。ところが、比率でみれば最大の輸入国の日本で株価は下落している。ようやく、原油安の消費者への恩恵が言われるようになった。1973年の秋に突然に石油価格が3~4倍になって、世界は大混乱。日本の株価は急落した。現在、それと正反対のことが生じているのに、やはり株価は下落。なんでだろう。

 もっともらしい説明は、産油国アラブの国々が原油安で収入が減り(サウジアラビアの貿易収支は赤字で、単年度の財政も赤字)、困って以前に買っていた先進国の株を売る、つまり換金売り、というものだ。しかし、財政・貿易赤字は単年度の事で、産油国が貯め込んだ金融資産は膨大で、100年は食いつぶせると言われている程だ。貧乏人なら、フローのお金が減ればストックを売るという行動をとる。しかし、大金持はそんな事はしない。まして、近い将来、最も上昇期待が高い日本株をわざわざ現在の水準で(下方は日経平均1万円~1万5千円で買っているから、利益は出ているが)売るとは考えられない。産油国のお金は欧米(主にアメリカ)のファンドに運用委託されている。つまりプロ中のプロが動かしている。彼らが上がりそうな金融商品を売るなんてありえない。本当に金に困ったロシアのような国がそうしている可能性はあるが、主要産油国はそうではない。

 もっとも、将来的には、彼らも歳出を見直さざるを得ない。地下にゴルフ場をつくったり、世界の高級品を買いあさりアラビアンナイトをまだやっている国々が目を覚ます良い機会にはなる。
 ともかく、原油安は日本にとってはメリットなのだ。日本のデフレの原因が国内の消費不振にあることはわかっている。だから、政府が経団連に賃上げを要求するという、以前とは違う風景が展開する。この国では、とっくに労働運動は衰退し、それに基盤を持った“左翼”は消滅している証拠でもある。

 中国人観光客の爆買いは日本人の消費不足を補ってくれる助け舟だ。多少のビヘイビアの悪さは仕方ない、ということになる。原油安は賃上げと同じ効果を持つし(もちろん回り道ではある)、かなりの企業に恩恵をもたらす。航空会社がサーチャージをゼロにするという。遅すぎたけど、その分儲かっているはずだ。急速な価格変動は、投資のチャンス。企業でも、原油安というコストの減少を、自社製品の値下げにつなげるまでのタイムラグは儲け時だ。顧客が下げろというまで黙っているというのは、虫の良い、しかし最高の戦術だ。

 という訳で、株価の説明としては二つとも妥当とは思えない。もうひとつ不思議なことが国々に示されている。先進国中、株価が最も下がったのはアメリカでもロンドン(一応ヨーロッパの代表数値)でもなく日本なのだ。※1) アメリカは原油の輸出国にようやくなったばかりだから、ここで原油安の影響が大きいとは思えないが、日本程に得をしていることはない。ヨーロッパは、ギリシア問題が潜伏しているし、ドイツを除いて好調とは思えない。なぜ、影響の少ない日本が最大の下げ幅なのか。これは調査してみる価値がある。  ついでに言えば、中国の減速は、日本にさほどに影響しない。日本製品を買っているのは中国の中・上層で彼らはあまり減速(・・)しないという観測があるし、日本に向けて輸出される品物は他の国々(東南アジア)でもつくれる。日本の中国依存が本当はどれ程か、これも検討を要する。
 となると、本当の原因は他にある。それが政治的なものか、マネーの数量によるものか、その結論はもうしばらく株価を観察してからにしよう。

※1)
年末の株価を100として1月の第3週までのグラフをつくると先進国では日本が一番下げている。次がアメリカで、欧州(ロンドン)は軽微である。中国は5000ポイントがバブルなのだから下げるのは当然だ。PERでみると3000ポイントあたりより下が妥当。

〈補足〉  原油価格の下落が株安の原因と主張するエコノミスト達の言い分。①石油元売り会社の減収、②アラブ系ファンドの売り、③石油関連設備投資の減少。

① に該当する会社はJXなど数社しかない。それが2000社以上の株価に影響することはない。
② 『エコノミスト』(2016.1.26)にアラブ系ファンドが売った会社の名前があがっているが、数十社で、その中に日本を代表する会社の名前は野村ホールディングスなどの数社しかない。
③ 新日鉄の社長が「パイプラインの需要が減る」神戸製鋼の社長が「石油採掘の関連投資が減る」とか言っているが、彼らはそれだけで商売をやっているのではない。デメリットをマスコミが無理矢理言わせている。

一月の投資家別の売買状況をみると海外勢は4,360億円(1月4日~1月8日)1,940億円(1月12日~1月15日)と売り越しだが、これはさほどの額ではない。むしろ証券会社の自己売買の売り越しが3,470億円、2,920億円となっている。“年明けは買い”と言っている証券会社が自分では売っているのは“面白い”が、これも大きな額ではない。買っているのは個人で、5,700億円、2,400億円の買い越しだ。昨年上場の郵政三社の新規公開を買い支え、吸収したのは大方が個人である。つまり個人はかなり資金を使っている。おそらく買い方が資金不足になっているのはこのためだ。ジャパニーズインベスター誌の調査※2)によれば、個人で既に売却した人は5~7%しかない。つまり資金は郵政株に固定されている。また投資姿勢を聞くと51~2%は3年以上の長期保有と答えているから、この方面からの個人の買い余力は乏しい。

 ここを売り方が狙った。これも有力な見方である。そして、この売り込みには政治的な意味もあった。つまり、日銀への圧力である。間違っても、利上げはするな!つまりFRBに追随するな。さらに進んで追加金融緩和への催促である。このシナリオは1月29日になって現実化した。日銀当座預金の金利をマイナスにしたのである。株価は500億円程上昇し、円安は一挙に進んだ(元に戻った!)が、ゆうちょ銀行をはじめとするメガバンクの株価は日経平均から500円近くも急騰するなか逆に急落した。ゆうちょ銀行は日銀当座預金に40兆円以上も預けている。たしかに、これは当面の損だが、引出せば良いだけの話だ。もちろん、このような大金は札束で動くのではなく付け替えだから、どこかの銀行(他国の銀行を含む)に移してしまえばよい。そうすると、80兆円も国債を買うと表明している日本が困ることになる。マイナス金利は、欧州の中央銀行が導入し、今回の日銀はその後を追ったにすぎないが、理論的には“ありえない”ことだし、やった日銀も奇策であると言っている。貸し出したら“利子を払う”なんていうことにはならないが、長期金利はゼロに近づく。現に長期金利は1月29日の発表のあと0.1%を切った。2月1日の週明けには国債には買いが集中し、利回りは0.05%まで下がっている。

 長期金利は、企業が投資をした際にいくら儲かるかを示す指数のひとつだ。つまり逆からみれば、投資をしても儲からない、少なくとも先進国ではそうなっていることの証明だ。

 この状況の中でアメリカが利上げしても、資金がアメリカに逆流するのは考えにくい。投資してまともな利益が上がるのは途上国しかないのである。合わせて考えれば、途上国での活動が活発な日本企業に注目が集まる。途上国の企業の経営にはまだ信頼が薄いのだ。中国をみればわかる。役人時代(社会主義)の感覚がそのまま持ち込まれ、経営努力がなくとも特権・独占・補助金で安泰。これが最も危険な状況なのだ。これを考慮すれば、この程度の調整は当然で、長期化する可能性は大である。

※2)
『ジャパニーズインベスター』2016,Spring,No88「日本郵政グループのIPOに見る個人投資家の動向」。

〈参考〉
 サウジアラビアの財政危機が伝えられているが、この赤字が続いても11年は持つという。同国の在外資産は7,300億ドル(88兆円)で、年間赤字は日本円で7兆円だ。
この計算は1バレル50.4ドルでなされている。1月末には30ドルの前後にあるから、もっと数字は動いてゆく。アメリカは輸出国になったが、まだ日は浅い。
2016.02.05 濱田 康行

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